※『名探偵コナン 紺青の拳』の中盤までのネタバレしまくりなのでご注意!

承前。
ここから、『紺青の拳』の“名犯人”レオン・ロー先生(倒叙だと罪悪感なく犯人の話できて良いですね)のモデルと思われる、刑事コロンボの“名犯人”たちについて解説していきます!
みんな全作観ようね!

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【レオン先生の「モデル」たち】


①『指輪の爪あと』のブリマー所長 &「オッカムの剃刀」の柳田教授
――「警察をドロップアウトした『名探偵』」

作中で語られるレオン先生の「警察の人間だったが民間に転身し、今は警備会社社長・コンサルタントになっており“名探偵”と一目置かれている」という経歴のモデルは、『指輪の爪あと』の犯人・ブリマー氏でしょう。
ブリマー氏(コロンボでは珍しい「下の名前が出てこない犯人」です。ノベライズ版では「マイケル」という名前が設定されています)は元刑事で、今は総合探偵社を立ち上げ所長に収まっているという人物。
警察時代のノウハウを活かして探偵社を順調に拡大させてきた一方で、捜査上知り得たセレブたちの秘密を握って恐喝を繰り返していたブリマー氏は、とうとう脅迫相手に逆に「すべてを告発する」と迫られ衝動的に殺害してしまい――という筋書きです。
いわば「探偵vs探偵」という異色作において、「直情的な性格を秘めた、しかし沈着な能弁家」という魅力的な「敵」像をつくりあげたブリマー氏役のロバート・カルプ氏は、その後も二度、犯人役としてコロンボに出演し、「コロンボらしい犯人」の一つの典型を築いた俳優さん。
全編にわたってロジカルな論戦と読み合いの“腹芸”の対決感が楽しい一作です。自分を逮捕しようとしている刑事を黙らせるために「警察よりいっぱい給料出せるから、うちの会社に就職しない?」とまで言い出す犯人がいたでしょうか?
 

ちなみに大倉先生は福家警部補シリーズの「オッカムの剃刀」でも、ブリマー氏を思わせる「警察をリタイアしたエキスパートの犯人」を描いています。トリックや最後の「決定的証拠」は、実はコロンボの別エピソードのオマージュだったりするのですが。
「オッカムの剃刀」は、倒叙ミステリのあるある「いつから私が犯人だと疑っていた?」のやつの「史上最短記録」を樹立したユニークな短編なのでぜひこちらも!


②『5時30分の目撃者』のコリアー先生
――「催眠術師」

レオン先生の、歴代の犯人の中でも屈指でやべーポイントとして「催眠術使い」であることが挙げられるかと思います。
あの作中フィジカル最強の真さんを、言葉一つ・ミサンガ一本で戦闘不能に追い込む話術。心理学者と言っても完全にパラメータ異常です。中富社長にすり寄り、共犯に引き入れるまでにも、巧みな心理術を用いたことが暗示されています。
実は刑事コロンボにも、催眠術使いの犯人が登場します。『5時30分の目撃者』のマーク・コリアー先生です。精神分析医の立場を利用して、セレブの奥さんの心の弱さに付け込んで愛人にしている悪いやつなのですが、同作にはなんとシリーズでも指折りのウルトラC「催眠術による殺人」が登場します。コロンボにも立件しようがないまさに完全犯罪で、私はコリアー先生をシリーズ最強の犯人の一人と思っています。作品自体も、丁々発止の対決感に、痛快な「決定的証拠」と見どころ盛りだくさんな傑作。
ちなみに三谷幸喜先生は、古畑任三郎の『笑える死体』で、同作のシチュエーションをほぼそのまま援用した「精神分析医による、心理誘導による殺人」を暴くという試みを行っています。「犯人の心理術に真っ向から挑んで勝つコロンボ」が描きたかったのでしょう。こちらも必見。


③『パイルD-3の壁』のエリオット・マーカム氏 そして……
――「握り潰された新都市計画」

レオン先生の最終目標は、「海賊王の証の宝石を餌に懐柔した海賊どもを使い、同じく懐柔した中富海運のタンカーをマリーナベイサンズに突っ込ませて、あの辺り一帯を更地にして、かつて自分が計画し頓挫したベイエリア開発計画を仕切り直す」という、激ヤバなものでした。
この動機のモデルになっているのは、おそらく『パイルD-3の壁』の犯人エリオット・マーカム氏でしょう。
高名な建築家であるマーカム氏は、自身が心血を注いだ新都市開発計画に対し、スポンサーのウィリアムソン氏から「金がかかりすぎるから出資は引き上げる」と宣告されたことで、彼を殺害し失踪したように見せかけ、自身のビジョンに心酔しているウィリアムソン夫人を通じて出資を続けさせようとしました。
第1シリーズの最終回として企画され、巨大ビル建造計画を背景にした「死体をどこに隠したか」というミステリーと、二転三転するスリリングな展開で人気の高い同作は、また、コロンボ役のピーター・フォーク氏が自ら監督を務めたことでも知られています。

ところで、「挫折した新都市計画」という動機で「あの人」を思い出した人も多いのではないでしょうか?
そう、コナン映画第1作『時計じかけの摩天楼』の犯人・森谷教授です。
マーカム氏と同じく建築家である教授は、自身が設計・主導した西多摩市の新都市開発計画が同市の岡本市長逮捕により頓挫したことで、その逮捕に貢献した工藤新一を恨んでおり、彼を陥れるべく『ダイ・ハード3』ばりの謎解きゲームをしかけました。

おそらく大倉先生には、コナン映画における新たな「最強の敵」を創造すべく、モリアーティの名を冠した第一作の犯人・森谷教授と、コロンボの“最終回の敵”であるマーカム氏のイメージを二重写しにし、レオン先生をつくりあげたのではないでしょうか?
そもそも『時計じかけの摩天楼』は、コロンバーにとっては特別な一作。大倉先生がオマージュ元に選ぶのは納得です。
他の容疑者が、完全に苦し紛れの白鳥さんくらいなので事実上倒叙であり、偽の証拠による「逆トリック」で仕留める展開はまさにコロンボ。そして何より森谷教授の声を当てているのは、二代目コロンボ吹き替え・石田太郎さんなのです!もうこれはコナンでなくコロンボの映画版といっても過言ではない! 

……といったように、レオン・ロー先生は、刑事コロンボの諸作のイメージとコナン劇場版第一作への「原点回帰」を見事に一人の犯人像の中に織り込んだ、コロンバーの大倉先生ならではの「名犯人」なのです。
みんな、これでコロンボ観たくなったよね?
全話観て1話あたり3万字の感想文を書いて白樺香澄ちゃんに送ろう!!!

※ネタバレしますよ?

こんばんは、白樺香澄です。
『名探偵コナン 紺青の拳』を観てきました!

園子園子園子爆破爆破爆破爆破園子!!!!

最高の園子映画でした。
もちろん、園子ちゃんが最高に可愛いことは『瞳の中の暗殺者』とか観てるので知ってますし、「お金で買えない友情」の回などで、園子ちゃんと蘭姉ちゃんの関係性が最高のやつであることも履修してたんですが、それでも今作の園子ちゃんのヒロインっぷりには、映画館で何度か呼吸困難になりかけました。

ラストのあの場面なに????????????????美しすぎるんだが????????????????????国宝か????????????????????????????

先に『紺青の拳』を観た友人の感想:「子どもの頃から知ってる園子の知らない表情に動揺してしまった」
 
閑話休題。
『紺青の拳』の園子ちゃんが可愛いことなんて観た全員が分かってるので、そんな1+1=2みたいなことを延々語ったりはしません。

なので今回語りたいのはこの人!
reon
犯人のレオン・ロー先生!!

魅力的な犯人は、劇場版コナンの醍醐味の一つ。

エキセントリックかつファナティックな動機。アグレッシブにもほどがある行動力。
そして毎回どこかから持ってくる大量の火薬!

脚本が福家警部補シリーズの生みの親にして日本屈指のコロンバー(刑事コロンボ愛好者のことをこう呼ぶ。私が。)である大倉崇裕先生と聞き、どんな犯人が登場するのか楽しみにしていました。

いや大満足! 刑事コロンボ的「名犯人」像と劇場コナン的「名犯人」像が見事に融合した、非常に魅力的な怪人物となっていたのではないでしょうか!

皆さん、『紺青の拳』観た後は刑事コロンボを見返したくなりましたよね?

えっ、なってない? なんで? どうしたの? おなか痛いの?

あんまりピンと来てない人のために、レオン先生のキャラクター造形のモデルになっているだろう、刑事コロンボ諸作の「名犯人」たちについて解説してみようと思います。


 サカキの「ロケット団リーダー」としての理念、つまり彼にとっての「世界征服」とは何か、というのは、一読では少々、見えづらいのですが、「11.崩壊」で語られるサカキの野望や、「14.決着」で、彼がダーティな仕事を手掛けるきっかけになったのが「実力があるのに不遇なトレーナーを、裏社会の人間に紹介した」ことと考えているあたりに、そのヒントがあります。
 つまり、サカキはポケモントレーナーを育成するジムリーダーとして、「多くのトレーナーが、その実力に見合った仕事と報酬を得られていない」社会システムそのものに対して懐疑を抱いていたわけです。ゆえに彼が求めているのは、そんな社会を変えることのできる「強さ」――強さがカリスマを担保するポケモンバトルの世界において最強のトレーナーとなり、また最強のトレーナーであり続けることによって得られる影響力・発信力なのです。
 彼がトレーナーとしての地位を確立するために不可欠と考えていたのが、赤緑における“最強のポケモン”ミュウツーを捕まえることであり、モンスターボール製造大手のシルフカンパニーを乗っ取り、「どんなポケモンも捕獲することができる」マスターボールを手に入れるのは、その計画の重要な1ピースでした。
 そう考えると、ロケット団幹部であり殺人の実行犯であるアポロの存在のなんと大きなことか。つまり、(ネタバレ反転)アポロがツチヤを殺してしまったことで、サカキはその隠蔽のために事後工作とともに、アポロにしばらく身を隠すよう命じる他なかったのですが、卓越したトレーナーであるアポロが不在となり、占拠作戦の機動部隊の一部が機能しなかったことが少年のシルフカンパニー侵入を許し、作戦の失敗とロケット団の壊滅、つまり「世界征服」の野望が潰される要因となってしまうのです。
 夢のために殺人まで犯しながら、その犯行故に夢を手放すことになる。アポロの存在こそは「別れのワイン」のワイン倉庫だったのです。(ネタバレ終り)

 しかし、ここまで精度の高いコロンボパスティーシュを書き上げる“rairaibou(風)”氏はいったい何者なんだ。
 諸作のイメージのコラージュの手つきや「対決のドラマ」と同じくらい「捜査のドラマ」を重視した作風、「殺しの序曲」への言及、さらに「厩火事」を彷彿とさせるエピソードが挿入される落語好きっぽい雰囲気……私など、「あれコレ、大倉崇裕先生が書いたんじゃないの?」と疑ってしまいます。
 同作を紹介してくれたAZERTさんによれば、“rairaibou(風)”氏はポケモンSS界隈の有名人で、「架空のポケモントレーナーがポケモン雑誌に寄稿したエッセイ」という設定の連作を著しているなど、フィクショナルな文体模写に巧みな方なのだそう。いろんなジャンルにいろんな傑物がいるんだなぁ……。

※ちなみに“rairaibou(風)”氏が大倉先生でない根拠としては、「2.登場」でコロンボがほかの搭乗客に「あのう……」と声をかけるくだりがありますが、大倉作品ではセリフの拗音の「う」は小さい「ぅ」で表記されることが挙げられます。
 ちなみに蘇部健一先生はセリフの小さい「っ」をカタカナの「ッ」で書くという目立った特徴があるので、大倉・蘇部両先生が合作した『刑事コロンボ 硝子の塔』は読んでいくと、どのシーンは最終的にどっちが書いたものがイキになったのかの判別が可能です。コロンボ界隈豆知識でした。

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