ネット創作文化の稀有な研究者であるAZERTさん(@sWAN_aI_sAI)に「コロンボがポケモンのサカキと対峙するSSがある」と教えてもらって読みました。なんだその発想。

 真夜中のトキワジム、ジムリーダー・サカキがロケット団のボスである事を見破ったジムトレーナーが、ロケット団幹部によって殺されてしまう。
 その場に居合わせたサカキは、自身がその場にいたことを誤魔化すため、幹部に現場を荒らし放火することを命じ、自身は酒場にてアリバイを作り、トキワジムが燃え上がるのを目撃する。
 翌日、現場からはジムトレーナーの死体が発見されるが、カントー警察局の人間はそれが物取りによる突発的な殺人である事を疑わず、強盗放火殺人として事件を片付けようとしていた。
 ちょうどその頃、ロサンゼルス市警(概念)からカントーへ研修に来ていたコロンボは、ふとした興味からその事件現場に赴き、現場の不自然な状況に気づいた。(作品ページより)

※この世界では、ロサンゼルスとカントー地方が併存しています。


 何これ天才が書いたやつじゃん!
 ポケモン赤緑世代で『刑事コロンボ』好きな人は読んだら全員泣いちゃうんじゃない?
 単純にパスティーシュとしての精度のエグさはもちろん、「赤緑」のストーリーラインと要素を、解決に見事に融合させた手腕に感服です。

 以下、ネタバレしたりしなかったりしながらレビュー。

 まず、ポケモン世界でサカキほど、コロンボの犯人役にうってつけの人物はいないでしょう。そこに目を付けた時点で勝ちなのです。

 ポケモンの歴代「悪の組織」は、マグマ団・アクア団、プラズマ団など過激な教条を掲げた思想犯(カルトにしてエコテロリスト)めいた描き方がされているのに対し、その元祖たるロケット団とそのボス・サカキはかなり「地に足がついた悪」として描かれていることにその特徴があります。

 カジノを財源とし、巨大企業を恐喝して乗っ取りフロント企業化することを目論み、窃盗や暴力、敵対者の監禁も辞さない反社会的団体。しかしそのリーダーは資格認証団体(ポケモンジム)の代表を務め、青少年の育成に尽力する名士という表の顔を持っている……今思うと、こんな生々しいヤクザがラスボスの子供向けRPGあります?

 表裏の顔。
 その二面性は、そのままサカキのキャラクターとしての魅力にもつながっています。赤緑において彼は露悪的な敵役として登場しますが、同時に三たび戦い、自身を破った主人公に対して「……君はとても大事にポケモンを育てているな」「君とはまたどこかで戦いたいものだ」と、好敵手として賛辞を送り、最後にはジムリーダーとしてバッジとともに「ポケモンリーグへ挑む君への餞別だ」と自身が開発したわざマシンを贈ります。

「このような負け方をしては部下たちに示しがつかない! ロケット団は……本日をもって解散する! 私はポケモンの修行を一からし直すつもりだ! いつの日か……また会おう! ……さらばだ!」(最後のトキワジム戦での敗北時のセリフ)

 サカキは敗北を認めて身を引く、高潔な人物としても描かれているのです。
 自身の目的のためなら暴力をも辞さない残酷さ・卑劣さを持ちながら、同時にその野望を打ち砕かんとする好敵手の出現には、正々堂々と挑み戦いを楽しむ。そして敗北を悟った時には潔く「降りる」美学も持ち合わせている――「殺人処方箋」のレイ・フレミング、「構想の死角」のケン・フランクリン、「祝砲の挽歌」のラムフォード大佐……コロンボの「名犯人」と呼ばれるキャラクターたちが備えていた品格を、サカキは持ち合わせています。

 「コロンボ警部がジムリーダーサカキに目をつけたようです」では、そんなサカキの二面性を、「動物を用いた格闘の世界に身を置く名士」という設定が重なる「闘牛士の栄光」のルイス・モントーヤのイメージを与えることで、コロンボ的犯人像として違和感のないキャラクターに仕立てています。
 作者・“rairaibou(風)”氏による巻末のあとがきにも、「闘牛士の栄光」がモチーフの一つであることが明言されています。
 そこで言及されている通り、コロンボがカントー地方にいる理由と捜査に加わる経緯は、「闘牛士の栄光」と並ぶ「出張もの」の「ロンドンの傘」が引かれており、この両作が物語の外殻のベースになっています。

 しかし、それだけではない諸作のコラージュの巧みさこそが本作の特色です。