サカキの「ロケット団リーダー」としての理念、つまり彼にとっての「世界征服」とは何か、というのは、一読では少々、見えづらいのですが、「11.崩壊」で語られるサカキの野望や、「14.決着」で、彼がダーティな仕事を手掛けるきっかけになったのが「実力があるのに不遇なトレーナーを、裏社会の人間に紹介した」ことと考えているあたりに、そのヒントがあります。
 つまり、サカキはポケモントレーナーを育成するジムリーダーとして、「多くのトレーナーが、その実力に見合った仕事と報酬を得られていない」社会システムそのものに対して懐疑を抱いていたわけです。ゆえに彼が求めているのは、そんな社会を変えることのできる「強さ」――強さがカリスマを担保するポケモンバトルの世界において最強のトレーナーとなり、また最強のトレーナーであり続けることによって得られる影響力・発信力なのです。
 彼がトレーナーとしての地位を確立するために不可欠と考えていたのが、赤緑における“最強のポケモン”ミュウツーを捕まえることであり、モンスターボール製造大手のシルフカンパニーを乗っ取り、「どんなポケモンも捕獲することができる」マスターボールを手に入れるのは、その計画の重要な1ピースでした。
 そう考えると、ロケット団幹部であり殺人の実行犯であるアポロの存在のなんと大きなことか。つまり、(ネタバレ反転)アポロがツチヤを殺してしまったことで、サカキはその隠蔽のために事後工作とともに、アポロにしばらく身を隠すよう命じる他なかったのですが、卓越したトレーナーであるアポロが不在となり、占拠作戦の機動部隊の一部が機能しなかったことが少年のシルフカンパニー侵入を許し、作戦の失敗とロケット団の壊滅、つまり「世界征服」の野望が潰される要因となってしまうのです。
 夢のために殺人まで犯しながら、その犯行故に夢を手放すことになる。アポロの存在こそは「別れのワイン」のワイン倉庫だったのです。(ネタバレ終り)

 しかし、ここまで精度の高いコロンボパスティーシュを書き上げる“rairaibou(風)”氏はいったい何者なんだ。
 諸作のイメージのコラージュの手つきや「対決のドラマ」と同じくらい「捜査のドラマ」を重視した作風、「殺しの序曲」への言及、さらに「厩火事」を彷彿とさせるエピソードが挿入される落語好きっぽい雰囲気……私など、「あれコレ、大倉崇裕先生が書いたんじゃないの?」と疑ってしまいます。
 同作を紹介してくれたAZERTさんによれば、“rairaibou(風)”氏はポケモンSS界隈の有名人で、「架空のポケモントレーナーがポケモン雑誌に寄稿したエッセイ」という設定の連作を著しているなど、フィクショナルな文体模写に巧みな方なのだそう。いろんなジャンルにいろんな傑物がいるんだなぁ……。

※ちなみに“rairaibou(風)”氏が大倉先生でない根拠としては、「2.登場」でコロンボがほかの搭乗客に「あのう……」と声をかけるくだりがありますが、大倉作品ではセリフの拗音の「う」は小さい「ぅ」で表記されることが挙げられます。
 ちなみに蘇部健一先生はセリフの小さい「っ」をカタカナの「ッ」で書くという目立った特徴があるので、大倉・蘇部両先生が合作した『刑事コロンボ 硝子の塔』は読んでいくと、どのシーンは最終的にどっちが書いたものがイキになったのかの判別が可能です。コロンボ界隈豆知識でした。