コロンボオマージュの小説書いてる作家さん、全員コロンボさんの夢女説(大暴論/私はそうだよ)


③「ミステリの精度を高めるための倒叙」

町田先生の「発明された倒叙」という語、そしてそれを受けての新保先生の「本格の変奏としての『折り返し型倒叙』」とのお話を受け、倒叙という手法を用いたバリエーションのいくつかを語るにあたって、上記表題のようなまとめ方を考えてみました。

新保先生のお話で感銘したのは『クロイドン発12時30分』の立ち位置で、私は同作を『殺意』のバリエーション=『罪と罰』系譜にある作品としか捉えていなかったのですが、確かにクロフツらしい捜査小説の側面も強く表れている『クロイドン』は、『歌う白骨』の血脈もしっかり受け継いだ作品だと気づきました。

つまりは「ミステリのための倒叙」。「犯人があらかじめ特定されている」ことで、語りやすくなるミステリ的プロットというのがあり、そのために倒叙形式が取られるパターンをきちんと分類に含めねばなりません。

1)ハウダニット

 犯人による犯行の場面を書いておきながら、のちに捜査パートに転じると犯人には鉄壁のアリバイがあることになっている……トリック一発のハウダニットものを書く時に、冒頭に犯行シーンを置くことで「絶対に犯人はこいつなのに」と、より「謎」を鮮明にアピールできますし、作劇として「犯人がこいつ以外にいないというロジック」をスッ飛ばすことができるというメリットがあります。
 また、読者に先入観を与え、叙述トリックを仕掛けやすいというのも利点の一つでしょう(ただ、手法としてあまりに手垢がつきすぎて、最近ではむしろ「犯行シーンなく犯人っぽいやつのモノローグから始まる話」は逆にこいつ犯人じゃないんだろ、となる人も多いのでは……?)

 倒叙形式のハウダニットを書かせたら日本最強なのは、質・量ともに間違いなく東野圭吾先生です。『容疑者xの献身』『聖女の救済』『ブルータスの心臓』『美しき凶器』……いずれも犯人視点に欠落を与えることで、対決型倒叙のスリルと、ハウダニットや共犯者探しのフーダニットといったミステリ的興味を両立させています。
 また、このパターンの重要な作家として、『金田一少年の事件簿』『探偵犬シャードック』の樹林伸先生も外せません。ドタバタタッチな犯人の「隠し事コメディ」を展開させながら、トリック隠しで結末にひとつサプライズを用意する手法は、「毎回、読みどころがないと飽きられてしまう」連載漫画の形式に合っているのでしょうね。


2)ホワイダニット

 一方で犯人の視点で犯行が描かれているが動機が分からない、もしくは捜査パートで「妥当な動機」を示して読者をいったん納得させたうえで、最後に「隠された意外な動機」が明かされるというホワイダニットにおいても、「謎」の鮮明化とフーダニットスッ飛ばしという作話上のメリットは十分に発揮されますし、こちらは「犯人の物語」を強化するという意味でも、倒叙の形式にふさわしい「謎の立て方」と言えるかもしれません。

「古畑任三郎」にも、「動く死体」や「動機の鑑定」など、犯人の心理のドラマに焦点を当てた名作がいくつもありますね。

「犯人の心理の物語」にトリックが仕掛けられている作品といえば、連城三紀彦先生の短編に傑作が多く(これは倒叙形式のものに限った話ではないですが)、最近の良作だと伽古屋圭市先生の『散り行く花』、降田天先生の『偽りの春』が素晴らしい収穫でした。

ハウダニット特化もホワイダニット特化も、「犯人の物語を見てきた」という読者の油断と先入観が鮮やかに裏切られるときに、その形式で描かれた物語の本領があるように思われます。
これらに分類名を振るならば、「不完全視点型」と言ってみましょうか。


本当に死ぬほど長くなってしまったので、このあたりで私論をまとめたいと思います。

①「倒叙ミステリ」はジャンル名でなく「形式名」であり、名づけた乱歩も幅広さを前提にしていたはずだから「これが倒叙の王道」「〇〇は倒叙ミステリじゃない」と言う必要はないんじゃないか。

さらに、町田先生のご意見を引き
②倒叙ミステリという「形式」で書かれた作品を「大ジャンル」でくくるとすれば
「犯罪者視点で描かれる物語の中で、ミステリ的興味(トリック、ホワイダニット、ハウダニット、ロジックなどなど……)が色濃いもの」(越境ジャンルとしての「倒叙」=「ノワールミステリ」)
「倒叙の手法を用いることでミステリ的プロットの精度を高めているもの」(「ミステリのための倒叙」)
とするのが妥当ではなかろうか。

「人に自分の推し作品をオススメしたい」or「自分が好きなタイプの作品を探したい」時に、目安になるジャンル内の分類として
・対決型
・動かぬ証拠型
・罠型
・不完全視点型
の諸要素を抽出したい。
※無論、多くの作品が複数の要素を兼ね備えていることを前提に、「この要素が強いやつが好き!」という言い方で
※推理作家によって書かれた作品でも、倒叙形式によるサスペンス感や「犯人の物語」を描くことを重視した作品は「ノワールミステリ」に分類

今まで名前を挙げた作品を例にすると:

・ヴィカーズ「百万に一つの偶然」は、「ノワールミステリ」で動かぬ証拠型
・「刑事コロンボ 別れのワイン」は、「ノワールミステリ」で対決型かつ罠型
・東野圭吾『容疑者xの献身』は、「ミステリのための倒叙」で対決型かつ不完全視点型

といった感じに類別すると、特にオススメ作品の布教と創作をするときに「作品の立ち位置」「自身が好きな作品系統」を語りやすく……ならないかなぁ?